ダイヤと刀 |
今から20数年前ある男の人が、ある女の人と結婚したいなーと思いをつのらせました。そのためには是非とも婚約指輪を買わなければと、何故なのか思いこんでしまったのでした。
(こんなに前からデ・ビアスの呪いはあまねく全国に蔓延していたんですね。)結婚するにはまとまったお金も用意せねば!
そう考えた男の人は取りあえず自分の身の回りのものを見渡してみると、ありました金額のはるものが、それは日本刀でした。
そしてそれを売って結婚資金にし、ダイヤの立爪リングを買いめでたく結婚の運びとなりました。
時は流れて現在、その男の人は2人の娘さんにも恵まれ、親子4人+ネコの幸せな日々を送っていました。ある晩のこと、その一家と1人の変な男とその奥方が、なぜか一緒に酒を飲みながらワイワイ盛り上がっていました。
ひょんな事から婚約指輪の話題になり、ご主人も婚約指輪を贈ったのだということから、日本刀のエピソードがとびだしてきました。奥さんも、2人の娘さんも初耳の話でした。
指輪はしまいっぱなしで全く使われていません。
早速、変な男は提案しました。
『それなら娘さんのペンダント・ヘッドにリフォームしよう』
娘は喜ぶ、奥さんもOK。
ご主人はエピソードでの苦労もあり、リフォームする事に少し抵抗はあったのですが、結局やることになりました。しかしその後に変な男としては1番出てきてほしくない、
切ない質問がご主人の口から出てきてしまったのです。『もしもあの日本刀を売っていなければ、いまこのダイヤの指輪とどっちが値が張ったかなー』まぁ実際、無いものとの比較は無意味なんですが、変な男は情け容赦もなく言い放ちました。『そりゃー何て言っても日本刀でしょ、当時だってそこそこの値で売れた刀なら、今だって結構しますよ。』さらに追い打ちをかけるように、『ダイヤモンドは店で買うときは、結構しますけど、それを質屋にでも持っていけば二束三文ですからね。』ご主人は本当にガックリしてしまいました。実はそのご主人、変な男@私の奥方の親戚のおじさんだったのでした。
2人の娘さんは時々メールをくれるのですが、先日もメールの中で『リフォームしてもらったダイヤのペンダント(元日本刀)愛用しています。』なぁんて、嬉しいこと書いてくれました。元が何であれ、皆さん身に着けずにタンスのコヤシにしておくくらいなら、立爪のダイヤなんてどんどんリフォームして、生きたアクセサリーによみがえらせましょう。 |
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私だけが知っていた事を悟られた |
私は仕事柄、電車の中や人が大勢いるところなどで、ついつい女性が身に着けているアクセサリーや宝飾品に、目がいってしまいます。
もちろん相手に悟られないように、チラッと一瞬にして品定めをするのです。若き独身時代のある披露宴でのこと。
私は新郎側で丸テーブルには新婦側の女性と、独身男を適当に混ぜてセッティングしてあったわけです。まあ上手くいけば新しい出会いが、てな事だったのでしょう。
まあ披露宴は進んで、テーブルの人たちとそれなりに会話もはずみ、何気なく私の仕事が宝石関係だと言うことも知れ、別にかくす様なヤバイ仕事ではないので、宝石の事などを話題にしていたりしていました。
そしてパーティーもめでたくお開きとなり、新婚夫婦に愛想笑いを送りながら、皆様会場を出て出口方面へと流れて行きます。私も引き出物も捨てるわけにも行かず持たされて、クロークでコートやオーバーなどを順番に受け取ろうと、人が集まって来ているときに事件は起きました。わっとか、あっとかそんな声が上がる中で、何やら白い物が勢い良くあたりにパーッと散らばったのでありました。そうパールネックレスの糸切れです。会場の女性従業員らしき人が、
『皆様動かないで下さい、パールをふんずけるといけませんので!』てな事を言ってたと思います。現場は一瞬ビデオのストップモーションのような、妙な状況になりその中で従業員数人が必死になって、飛び散ったパールを集めています。
そしてよく見るといたいた、糸切れの方がボーゼンとして・・・。
ほぼ集め終わったパールを封筒みたいな袋に入れたものを受け取って、振り向いたその女性と目が合ってしまったのです。そして、脱兎のごとく逃げるように帰ってしまいました。なぜか?!ふふん。その人はパーティーの時に私と同じテーブルで、他の人たちともにこやかに話をしていました。そして胸元には60cmセミロング8・玉のパールネックレスが、燦然と輝いていました。が!なぜでしょう?私が宝飾品関係の仕事だと知ると、とたんに私と目線を合わさなくなった女性でした。
そうですそのネックレスは非常に良くできた大変美しいピンク系の貝パール(にせもの)だと、私は見た瞬間から気づいていたのでした。わかっちゃうんだな、すぐ。向こうも気づかれたのをわかったんでしょ。従業員さん達が必死で拾い集めてくれた貝パール、彼女はその後どうしたんだろう。 |
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欠けたダイヤモンドのリフォームの仕事 |
長くリフォームを手がけていますが、欠けたダイヤを見たのはこの時だけ。
20年以上前のことですが、後にも先にもこの1個だけ。
真っ二つとかに、潔くワレルのではなくダイヤが部分的に欠けるなんて。
皆さん想像できますか?
0.4ctくらいの大きさの丸いダイヤ(ラウンドブリリアントカット)の立爪リングで、爪6本うちの一本がかかって留めていた部分が、ペキッと取れちゃった状態でした。(ダイヤのかけらは見つからなかった。もっとも見つかってもくっつけることは、不可能ですけどね。)ま、びっくりしましたよ。
なんでこんな信じられない事が起こったのか?
それはなんと夫婦ゲンカの果ての悲劇(ダイヤにとっての)だったそうです。物が飛ぶは殴り合うはのかなりのバトルのその最中に、(私は見ていたわけではありませんが、)間違いなくピキッかペキッか解りませんが、欠けちゃったですよね、ダイヤモンドが。
しかしなんでそんな険悪かつ危険な状況の時に、立爪ダイヤリングなんか着けていたのかは残念ながら聞き漏らしました。その後結局離婚したそうです。しっかし、よほど特殊な力が複雑に一点に集中したんでしょうね、一瞬にしてモギ取った様な形でしょうか。
そこの部分以外にはヒビも入っていないんですからホントに不思議としか言いようがありません。
さてどうやってこの困ったダイヤをレスキューしたものか、正直言って悩みましたよこれは。
欠けた部分を消すまでカットしてしまうと、0.4ctがメレーダイヤみたいに小さくなっちゃうし・・・、そこで天才リフォーマーは苦し紛れの迷案をひねり出したのであります。
リフォーム方法 |
そのウルトラCとは
ラウンドブリリアントカットをハートブリリアントカットに、見せかけるというせこい、いや素晴らしくエコノミーなアイディアだったのでした。
欠けた部分をそのままハートの上のくびれの下に隠してしまおうということ。まずプラチナでハート型を作って、ダイヤを「ふせこみ」と言う石の留め方で、爪なしで囲い込むように留めリングに再生しました。
リフォームのイメージは下図のごとき。
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欠けた0.4ctダイヤ
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ハート型にふせこむ
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間近でじっと見ない限りばれないという、いわば瞬間芸のような?リングではありましたが、かなりの出来映えでしたよ。もっとも少しズングリムックリしたハート型ではありましたけれど。
ははは。 |
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仕上がりの良さだけしか、頭に無かったある職人さんの喜劇
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甲府で修業中のことでした。いつものように仕事を頼みにその職人さんの家に行くと、一生懸命にk18の特注のバックル(紳士ベルト用)を作っていました。
「どうだい、眞ちゃん。いいできだろう?」
と見せてくれました。ズッシリと重く、磨きも彫りも申し分の無いできばえで、
「いいねぇ、このデザインなら当然、”全面メレダイヤの彫り止め”で結構な金額になるさなぁ。まぁ、でも絶対に”メンツ”がかかってだろうから、取りっぱぐれ(代金の)は無いでしょ。値段吹っかけてやれば?関西方面からの注文でしょ?そのバックル。」
と私。そこで職人さんが
「何だおめー、出来かけのバックル見て、なんでそこまで言うズラ?」
「だってこれ誰が見たって”菱形”でしょうが。それに他に文字とかマークが無いんだから、おそらく神戸の”本部直系”さんのだと思ぉよ。」職人さんは、ジーッとバックルをみつめて無言。さらに私、
「そうさなぁー、最近○○さんの仕事よぉ、すごい”ダイヤの印台”とか、ぶっとい”喜平のネックレスにメレダイヤの彫り止め”とか、おやまーエグイ仕事が多くなってきたなーと思ってたんだ。」職人さんまだ無言。私続けて
「この手の特注もの回してくる店さあ、御用達なんじゃないの。それにきっと前の仕事のできばえ気に入られてよぉ、”ご指名”なんじゃない?<おい。必ずこの前の職人に作らせるんだぞ>とかなんとかいってさ。」
職人さんがやっと口を開いた。「いやな事言っちょ、でも普通、印台は”四角”ズラ。なんでわざわざ”菱形”で作ってくれっていうのかなーと思ったんさー。」
もうお分かりですね、そう、この職人さんは良い製品を仕上げるのにタダタダ夢中で、せっせと菱形を造り続けていても、それが全国ネットのコワーイ所からのオーダーだったと、その形に潜む深ーい背景にこの時まで全く気が付かなかったのです。
当時その職人さんは若手でも腕が良く、私もよく仕事を頼みに行きましたが、私の予想どうりその後も順調に菱形系の特注物のオーダーが入り続け、ついには女性用のでもエグイ菱形系の仕事も入り始めだしました。気の小さなその職人さんは何かイチャモンがつかないか、ビクビクしながら文字どうり必死になって造り続けていました。ちなみに、現在も続いているのかそれは解りません。 |
注:印台とは四角形の台座のリングでダイヤを埋め込み周りに星形の模様を彫り入れた形のも多く、ごっついおもに男用のリングのことです。こんなデザイン→ |
注:喜平とは形が小豆(あずき)に似ているチェーンを90度づつひねったもの。その表面をカットして、平面的にしたのが文中の喜平にあたる。太さもいろいろ。 |
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